「うちの会社もそろそろ年功序列は限界だ」
「専門人材に来てほしいけど、給料が高くなりそうで手が出せない」
そう悩んでいませんか。大企業では今、新しい人事制度への切り替えが加速しています。
先日、三井住友カードが特定分野の専門人材に対して「ジョブ型人事制度」を導入したと発表しました。ジョブ型とは、社員の働く「時間」や「場所」ではなく、「仕事の内容(ジョブ)」や「成果」に応じて評価や報酬を決める仕組みです。この動きは、中小企業とは関係ない話に聞こえるかもしれません。しかし、ジョブ型の考え方こそ、中小企業が抱える「人手不足」や「若手のモチベーション低下」といった課題を解決し、優秀な専門人材の採用を成功させる大きなヒントになるのです。この記事では、大企業の事例を参考に、中小企業が専門人材を惹きつけるための賃金設定の仕組みを分かりやすく解説します。
中小企業が「専門人材」を諦めてはいけない理由
中小企業にとって、特定のスキルを持った専門人材、特に技術系の採用は非常に難しい状況です。年功序列の賃金体系が、その大きな壁になっていることが多いのです。
1. 専門性の高い人材を「ピンポイント」で確保できる
三井住友カードの事例では、AIやデータサイエンスの分野で新卒採用を行うなど、まさに専門性の高い人材の確保を目指しています。ジョブ型の考え方を取り入れる最大のメリットは、年齢や勤続年数に関係なく、「この仕事をしてくれるなら、これだけの報酬を払います」と、仕事内容に見合った市場価値の高い賃金を提示できる点です。
これにより、従来の制度では採用が難しかった専門人材を、必要な時、必要な部門にピンポイントで迎え入れることが可能になります。
2. 社員の「スキルアップ」と「成果」を公平に評価できる
従来の年功序列では、頑張って成果を出しても、長く働いている社員と給与が変わらない、といった不公平感が生まれがちでした。
ジョブ型では、専門スキルがどれだけ伸びたか、そのスキルを使ってどれだけの成果を出したかを基準に評価します。この考え方は、若手社員や中途採用の社員に大きなチャンスを与えます。努力次第で早く昇給・昇格できるチャンスが生まれれば、社員のモチベーションが上がり、会社全体の生産性向上にもつながるでしょう。
中小企業が専門人材を惹きつける「賃金」設計の3つのステップ
いきなり制度全体を変えるのは大変です。まずは、今ある人事制度にジョブ型の考え方をプラスし、専門人材の採用を強化する3つの具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:全社員の「ジョブ」を明確にし、「見える化」する
まず、社員一人ひとりが「どんな仕事(ジョブ)」を担当しているのかを明確に定義し、書類にまとめましょう。
- 仕事内容の棚卸し:日常業務はもちろん、「部長」や「課長」といった肩書ではなく、「求められる具体的な役割」と「必要なスキル」を明確にします。
- 役割期待の共有:社長や上司が社員に対して「あなたに期待する役割はこれだ」と明確に伝える機会を作りましょう。
仕事の「見える化」は、適切な賃金設定と専門人材の採用を進めるための土台になります。
ステップ2:「専門職」だけを対象に、市場価値を反映した賃金を導入する
全社員の給与体系を変えるのではなく、まずは「特定の専門スキル」が必要な職種や、これから強化したい部門の社員だけを対象に、ジョブ型の考え方を導入します。
- 特別手当の創設:高度なITスキルなどを持つ専門人材に、年齢や勤続年数に関係なく市場価値を反映した賃金(特別手当)を支給する仕組みを設けてみましょう。
- 退職金・年金制度の切り離し:三井住友カードの事例のように、ジョブ型を導入した専門職については退職金や年金制度を適用せず、その分を毎月の給与に上乗せして市場価値の高い賃金として支払うことも検討できます。
メリハリのある処遇を部分的に取り入れることで、優秀な専門人材の採用と定着につながるでしょう。
ステップ3:社員の「スキルアップ」をサポートする仕組みを作る
ジョブ型で高い賃金を払って専門人材に成果を求めるためには、会社が社員のスキルアップを積極的に支援する姿勢が不可欠です。社員のスキルが伸びれば、それが会社の成果に直結するからです。
- 教育制度の整備:社員が業務に必要な外部研修やオンライン講座を受講する際の費用を会社が負担する制度を作りましょう。
- 資格取得の奨励:ジョブに必要な資格を取得した際に、一時金や昇給などの形で評価する仕組みを設けます。
社員が「自分の頑張りやスキルアップが正当に評価される」と感じられる環境を作ることが、専門人材を惹きつける重要なポイントです。
まとめ:専門人材 採用は「ジョブ」と「賃金」の見直しから
この記事では、大企業の事例を参考に、中小企業が専門人材の採用を成功させるための「ジョブ型」の考え方と、市場価値を反映した賃金設計の3つのステップをお伝えしました。
専門性の高い人材の確保や、社員のスキルと成果を公平に評価する仕組みは、会社の成長に欠かせません。ジョブ型の考え方は、年功序列の限界を感じている中小企業の「人材戦略」を強くします。
「自社の賃金制度にジョブ型の要素をどう取り入れたらいいか?」「専門人材の市場価値を反映した賃金設定について具体的にアドバイスがほしい」――もし、そのようなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ私たちにご相談ください。私たち当事務所では、貴社の現状の制度を拝見し、無理なくジョブ型の考え方を取り入れるための人事制度設計や、専門人材を惹きつける賃金体系の見直しをサポートしています。優秀な人材を惹きつけ、定着させるための強い組織づくりを、一緒に進めていきましょう。
参考資料
三井住友カード「「ジョブ型人事制度」、特定分野の専門人材に導入」(2025年10月10日)






